秘密の303

鳴原あきら(Narihara Akira)

 普通のいとこ同士がどれぐらい仲がいいかわからないが、悠美と希望の家は近所で、小学校の頃は同じ学校だったので、昔はけっこう行き来があった。しかし三歳の年齢差があるので、悠美が高校にあがる頃には、月に一度会うか会わないかになった。それも用事のある時だけ。
 中学に上がってすぐ、希望がこんなことを言い出した。
「悠美ちゃん、やっぱり美容師になるつもり?」
「そうね」
 腕一本で食べられる仕事につきたかった。自分のやりたい事の中で一番早く自立できるのは、美容師だと思っていたから、昔からそう言っていた。
「だったら、私の髪で練習しない?」
「え?」
「ファンクラブの会費以外にも、音源を買ったり本を買ったりしてるから、お小遣い、ちょっと足りなくて」
「カット代を回したいってこと?」
「そういうこと。悠美ちゃんはいつもロングだから、ショートは切りたくない?」
「そんなことないよ」
「私、くせっ毛だから、ちょっとでも長くすると、外はねしちゃうんだ。だからうまく伸ばせなくて、一ヶ月とか一ヶ月半で切らないとだめで。でも、今行ってる美容室、おばあちゃん先生だから、安いけど、可愛く切ってくれないんだよ。校則の範囲内で可愛くしたいんだけど、悠美ちゃんには難しい?」
 そう煽られては断りにくい。
「私が失敗したらどうするの」
「校則の範囲内で失敗とかある? 刈り上げとかにしないでしょ? 普通の美容室だって失敗はあるし。それに私、悠美ちゃんになら、何をされても平気だよ」
 そこまで信頼されても困るが、まあいいか。
「あと、もし切ってくれるなら、もう一つお願い」
「なに?」
「うちの親には言わないで。できれば誰にも」
「家で切るのに完全に内緒にはできないと思うけど、自分からは言わないようにするよ」
「ありがとう。悠美ちゃんが約束してくれるなら安心」
「なんの約束にもなってないけどね。まあ明るいうちは、親も兄貴も帰ってこないから大丈夫かな」
「なんかお礼しなきゃね」
「別にいいよ、練習で切るなら。身内なんだし」
「嬉しい。よろしくね!」
 そんなわけで、定期的に希望の髪を切っていたのだが、ふと気づくとここ三ヶ月切ほど会っていない。伸ばすことにしたのだろうか。
 悠美はスマホを取り出し、希望にメッセージを送った。
「図書館にいる?」
「どうして」
「アオトの朗読会やってるから」
(960文字)
短編 恋愛 少女
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鳴原あきら(Narihara Akira)
百合とかBLとかミステリとかで活動中。商業だと怖い話もあります。
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